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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)586号 判決

上告人

高萩ナミ

上告人

高萩宜久

右両名代理人

藤井英男

市井茂

中島清

被上告人

荒川久馬

被上告人

山陽木材防腐株式会社

右代表者代表取締役

田中真一郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人市井茂、同藤井英男の上告理由一〜三<省略>

同四(3)について<(1)〜(2)省略>

仮処分の目的物に関して提起された本案訴訟の係属中に、執行吏の保管する仮処分の目的物が執行裁判所の換価命令によつて換価され、その売得金が供託されるに至つた場合においても、右の換価は、仮処分の目的物が滅失毀損するおそれがあり、または著しい価額の減少を生じ、もしくは貯蔵に不相当の費用を必要とするようなときに、その経済的価値を保全する目的でなされるものであるから、その売得金は仮処分の目的物に代わるものとして、その間になお同一性を保持しているものと解するのが相当である。したがつて、本案訴訟の目的物ないしはこれに対する審理の対象たる権利ないし法律関係はなお消滅したものでなく存在しているものと解すべきであるから、本案裁判所は、本件のように、搬出禁止の請求の目的となつた伐採木について換価が行なわれ、その売得金が供託された場合においても、直ちに訴訟の目的物が滅失し、これに対する権利ないし法律関係も消滅したものとしてその請求を棄却すべきものではなく、右換価が行なわれなかつた場合とひとしく、本来の訴訟物たる権利ないし法律関係について審理し、判決するを妨げないものと解するのが相当である。そうだとすると、本件において所論のように仮処分執行裁判所の換価命令によつて本件伐採木二、四七三本が換価され、その売得金が供託された事実があつたとしても、それにかかわることなく、被上告人久馬の請求を認容した原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

上告代理人藤井英界、同市井茂の上告理由第一点について。<略>

同第二点について。

本訴請求中前記伐採木二、四七三本の搬出禁止を求める部分を除くその余の本件山林への立入りおよび右山林中の立木伐採の禁止を求める請求部分は、所論伐採木の換価とは何ら関係がないのであるから、右の換価がなされたからといつて訴の利益を失い、また訴の目的を欠くに至る性質のものでないことは多言を要しない。また、右伐採木の搬出禁止を求める請求についても、右伐採木とその換価による売得金とが同一性を有し、かつ、上告人らが伐採木に対する侵害行為を中止したのは仮処分命令の執行の結果によるものであることはさきに説示したとおりであるから、これが換価されたからといつて直ちに訴の利益を消滅したものといえず、また訴の目的を欠くものといえないこともさきに説示したとおりである。それ故、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第三点(一)について

仮処分の目的物が換価され、その売得金が供託された場合においても、換価前の目的物は滅失したものでなく、したがつて、本案裁判所は換価前の目的物に対する権利ないし法律関係の存否について審理をし、本案判決をなすを妨げないものであることは、すでに上告代理人市井茂、同藤井英男の上告理由四(3)について説示したとおりである。したがつて、右の換価により訴訟の目的物が滅失に帰し、これに対する権利ないし法律関係が消滅したことを前提とし、原審の釈明義務違反または審理不尽ないしは理由不備の違法をいう論旨はその前提を欠くものであつて、採用できない。<後略>(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田 誠 大隅健一郎)

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